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【奈良】不審ヶ辻子町は不審な場所なのか?(その2完)

(前半のあらすじ:町の名前の由来が「悪い鬼を小坊主が追いかけ、この辻で見失ったから」であることを紹介。地元の方へのインタビューで、現在は平和で活気ある場所であることを確認した)

怨念から生まれた鬼と、雷神の申し子
不審ヶ辻子町の名前をめぐる伝説はこうだ。
ある夜、長者の家に賊が忍び込んだが、長者は賊を取り押さえ、現在の奈良ホテル辺りにあった山から谷底へ投げ落として殺した。命を落とした賊の怨念が鬼と化し、毎晩のように長者の家や、不審ヶ辻子町近くの元興寺(がんごうじ、世界遺産)などに出現して人々を襲うようになった。ある童子(小坊主)が鬼を追いかけたが、鬼を見失ってしまった場所なので、不審ヶ辻子町と呼ばれるようになった。追われていた鬼がここで姿を消したのは貞享4年(1687年)で、その時、占い師が「不審な辻だ」と言ったのがきっかけだという説もある。

「見失った」後にもう一度見つけたのか、別の小坊主なのかは分からないが、「鬼を退治した」という話がある。

尾張国出身で「雷神の申し子」と言われた怪力の童子の話だ。激しい格闘の末に鬼の頭髪をむしり取って退治したという。この凄腕の童子は、のちの「道場法師」だと言われている。

現在、元興寺を訪れると、杉本健吉画伯の筆による独特で力強い鬼の絵馬が売られている。その由来を読むと、描かれているのは童子に退治された悪鬼ではなく、なんと童子の伝説が元となった「鬼を退治する雷を神格化した八雷神、元興神(がごぜ)」だというのだ! 頭が混乱してきた。

土で作られた獣の像が地面に置かれている風景
土製の仏像が石の上に座っている横に、いくつかの丸い石が積み重なっている風景

現代に続く鬼のミステリー!? 木の上に潜む鬼
境内を散策していると、彫刻家・陶芸家の故・水島岩根氏が作った鬼の像を2点確認できた(5体あるとの説がある)。

しかし伝説ハンターは、さらにとんでもないものを発見した。ほとんど誰も気づかないような木の上にも、鬼が飾られているのを見つけたのだ。すかさず自撮り棒を伸ばして撮影した。

木の幹に取り付けられた鉄製の小さな置物が、緑の葉に囲まれている。

受付の方に写真を見せて詳しく聞こうと思ったのだが、複数の方が「木の上に鬼がいたとは知らなかった」と驚き、別の方は「鬼がいることは知っていたが、作者についてはよく分からない」と答えた。鬼のミステリーは、なんと現代の元興寺でも続いていたのだ!(他にも木の上に隠れている鬼がいたら大変失礼します)

児童文学に描かれた「善と悪」の鬼
奈良を舞台にした児童文学、寮美千子さんの「ならまち大冒険 まんとくんと小さな陰陽師」の中でも、この不審ヶ辻子町が一番の見せ場に登場する。

子どもたちがワクワクするような不思議な響きを持ったこの町名が江戸時代に名付けられた理由には、やはり冒頭で触れた「小坊主と鬼の伝説」が関係していた。

ネタバレになるので詳しくは書かないが、物語では鬼伝説が現代風に昇華され、鬼たちが「自分たちは鬼ではなく守護神だ」と語る場面がある。ここでも、鬼は邪悪とも正義とも取れるように描かれていた。

伝説ハンターの冷静な検証
さて、伝説ハンターとしてここで少し冷静に検証してみたい。

もし鬼を退治したのが道場法師だとすれば、彼が活躍したのは元興寺が現在の場所(平城京)に移転してくる前、すなわち明日香村の「飛鳥寺(本元興寺)」だった時代の話になる。平城京の不審ヶ辻子町に鬼が逃げ込むには、明らかに時代が合わないのだ。
さらに言えば、毎晩のように小坊主が殺され、鬼の爪痕が残ったとされる伝説の梵鐘は、現在、元興寺ではなく新薬師寺に置かれている。こちらも場所が全く合致しない。

……とはいえ、これは厳密な歴史考証ではないので、事実関係をこれ以上深く突き詰める必要はないだろう。「そもそも鬼は実在したのか?」という根源的な野暮な話に行き着いてしまうからだ。

検証の結果:不審ヶ辻子町に不審なところは無かったが、時代も場所も辻褄が合わない伝説を、そのまま公式の町名にしてしまう江戸時代の人々の「おおらかさ」こそが、現代の我々から見れば一番不審で、面白いミステリーであった。

最終検証:夜の不審ヶ辻子町で見たものは…
「夜中に来れば、何か面白いものが見えるのではないか?」
そう考えた私は、夜中に3度目の不審ヶ辻子町探索に行くことにした。暗くなるまで、やむを得ず居酒屋を2軒はしごして時間をつぶした。

盛り皿に盛られた日本の和食、鶏の唐揚げ、ブロッコリー、さつま揚げ、カニカマ、マヨネーズ和えの豆類が含まれている
黒いラベルの日本酒のボトルと透明な酒器がカウンターに置いてある。背景には居酒屋の内部が見える。

しかし、現場には人も鬼も見られなかった。

翌日、ホテルでシャワーを浴びていて、自分の頭にけがをしていることに気づいた。慌ててスマホやアクションカメラを確認すると、歩きながら動画を撮影していた記録が残っていたが、最後に電柱にぶつかった所でプツリと中断していた。どうやら転倒したらしい。

何が起きたか覚えていなかったのは、美味しい酒を飲みすぎたからなのか、それとも真実に近づきすぎたハンターの記憶を鬼が消した仕業なのかは分からない。

いずれにせよ確かなのは、夜中にカメラを持って電柱に激突した私こそが、不審ヶ辻子町で唯一の不審人物だったということだ。

暗い路地に並ぶ建物と夜の街灯

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